人間失格

人間失格

人間失格

 奇しくも27歳という年齢でこの作品を見ることができたことに運命的なものを感じる。
 人間らしさの欠けた主人公が悩み壊れていく日常を描いたといえば単純な話だが、そもそも人間らしさが欠けているとはどういうことだろうか?
 誰だって人間らしさの一つや二つは欠けているもので、逆に考えてそういったところに悩む姿というのはとても人間らしい一面だと言えるだろう。また単純に改善するわけでもなく遊び、酒、女に身を委ねるあたりがまたひたすらに人間らしいものだった。
 この小説の素晴らしいところは、人が人として生きれず悩み壊れていくメカニズムや心境について一石を投じたあたりだなあと。


 もしこういった人間を不気味に感じるのであれば、それは実に正常なことだろうが、俺からすればむしろそういった人間にこそ人としての異常さを感じるところだ。考える葦であることを人間らしさと捉えれば、この小説の主人公ほど人間らしい人間はいない。惜しむらくはその力を仕事方面で発揮しきれなかったところだろう。
 読めば鬱になるとよく聞いていたが、実際読んでみると鬱になることもなく、単純に面白く、同時に共感できる話だった。


 先に大まかな結論が描かれていたのが印象的で、太宰治の自殺した時期からみても小説というより自伝らしさが残る。
 実際どうなのかはわからないところだが、しかし言葉悪く不謹慎なことを言わせてもらうと、太宰治の死をもってこの小説は最高のエンターテイメントになったんじゃないかという気さえする。
 太宰治が死んだかどうかで小説の見方が変わってしまうあたりに、人間という生き物の妙を感じてしまうところ。